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■研究

Analytical Study of Acoustic Mechanism of “Suikinkutsu”
    
  
水琴窟の音響機構の解析的研究

 Yoshio Watanabe
 
渡部由雄(工学博士・東海大学工学部応用化学科教授/本会会員)
    
     応用物理学会、国際論文誌「Japanese Journal of Applied Physics(JJAP)」
     Vol. 43, No. 9A, 2004, pp.6429-6443

 
     ※論文の要旨・論文全文のPDFファイルを著者の提供、許可をいただき転載いたします。
       無断複製及び許可なく転載することを禁じます。

 

「水琴窟の音響機構の解析的研究」 の要旨

Japanese Journal of Applied Physics
Vol. 43, No. 9A, 2004, pp.6429-6443
DOI : 10.1143/JJAP.43.6429

Analytical Study of Acoustic Mechanism of “Suikinkutsu”

Yoshio Watanabe

Department of Applied Chemistry, Faculty of Engineering, Tokai University,
 1117 Kitakaname, Hiratsuka-shi, Kanagawa 259-1292, Japan

(Received November 19, 2003; revised May 31, 2004; accepted June 2, 2004; published September 9, 2004)

Abstract:

In this report, I describe an experimental analysis of the acoustic mechanism of the suikinkutsu. The sound of the suikinkutsu consists of an original sound generated by water drops striking the surface of the water in the suikinkutsu and a reverberant sound generated by the original sound. The reverberant sound is the sound we hear through the observation holes of the suikinkutsu. The body of the suikinkutsu also has its own natural frequencies and vibrates in synchronism with the natural frequencies of the oscillation modes of air inside it, affecting the tonal quality of the sound emitted from the suikinkutsu. If all of the natural frequencies and time constants of the reverberant sound are optimized, the suikinkutsu can produce a sound of good tonal quality. In this study, we investigate the relationships between the original sound and the reverberant sound emitted from the suikinkutsu. We propose an experimental formula representing the natural frequencies of the suikinkutsu and examine the validity of this formula.

Keywords:

suikinkutsu, drop, splash, bubble, underwater sound, proper vibration of suikinkutsu
 

◆「水琴窟の音響機構の解析的研究」 の英文論文のPDFファイルについて

J
apanese Journal of Applied Physics
Vol. 43, No. 9A, 2004, pp.6429-6443
Analytical Study of Acoustic Mechanism of “Suikinkutsu”

Yoshio Watanabe

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「水琴窟の音響機構の解析的研究」(和訳+英文+仏訳)

A4版52頁


2007年10月発行

 




「水琴窟の音響機構の解析的研究」(和訳+英文+仏訳)

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水琴窟の音           谷口 旦/渡部由雄

  特定非営利活動法人
  日本水琴窟フォーラム会報Vol.5/2002年9月/
7頁〜10頁に掲載
  ※画像等は省略してあります
 
  

長い歴史をかけて磨かれた技術や製品は、自然科学の本質に触れる手がかりの宝庫であり、奥が深くて素晴らしいものです。最近、水琴窟フォーラムの皆様のご紹介で、幾つかの水琴窟を見ることが出来ました。まさに水琴窟はその一つだと思います。以下で、我々が見た幾つかの水琴窟について観察した結果を紹介したいと思います(図1)。

図1 田村光氏の創作水琴窟「華水琴」

高さ53cm、胴回り110cm、水滴の落下距離36cmの可動型水琴窟で
す。
 

水琴窟が涼しげな音色を奏でています。水琴窟の上からは少量の水が流れ続けて、この水が水琴窟の天井で水滴となって成長し落下しています。水滴は水琴窟の底に貯まった水面に衝突し、音源となる音を発生します。この音が水琴窟の瓶壁に当たって反響し、数種類の残響音となります。音源の音はほとんど聞こえないので、われわれはこの残響音を水琴窟の音と呼んでいます。

●水滴の落下距離は40cmが最適

水琴窟の天井で成長する水滴は面積が広くて水平な場所で大きく成長します。また、成長時間が3秒程度までは時間が長いほど大きくなります。成長した水滴は、はじめに大きな水滴(直径6mm)が切り離されて落下し、続いて小さな水滴(直径1mm)が数個落下します。水琴窟の底に貯まった液面に最初の水滴が落下すると、大きな窪み(直径20mm)が出来ます。この大きな窪みの中へ後続の小さな水滴が落下して、小さな窪みをつくり、それが気泡となります。大きな窪みは小さな気泡を抱えたまま上昇して、こけし状の水柱を形成します。この水柱が落下して、周りに波紋が広がり、後に気泡の泡が残りますが、その泡もやがて消えます(図2)。

図2 水滴の成長と落下

曲率半径20cmの時計皿に小穴を開け、そこに水を流し込に、皿の下面で成長
する水滴です。水滴が6秒間隔で成長し落下している場合で、大きな水滴(直径6.5mm)に続いて、4個の小さな水滴(直径1〜2mm)が落下しています。


最初の大きな水滴が衝突してできた大きな窪みに、後続の小さな水滴の1〜2個が衝突して出来る気泡の振動が、まさに水琴窟の音源です。気泡が出来た瞬間から800〜1500Hz(1秒間の振動数)の音が聞こえはじめ、それがこけし状の水柱に抱え込まれて、こけし状の水柱が最高点に達するまでの0.05〜0.08秒程度聞こえます。最初の大きな水滴が衝突して大きな窪みをつくるとき、および最後に気泡が水面に浮かんではじけるとき、普通想像するように、音が出るには出ます。しかし、それらは10000Hz以上の小さな音で、小さすぎてまた高すぎて人間の耳には聞こえません(図3)。

図3 水滴の衝突と音
図2と同じ条件で、一連の水滴が時計皿から36cm下の水槽水面に落下し衝突したときの高速写真と音の記録です。写真と音の時間は同じになっています。大きな水滴の衝突のとき(A)およびそれによる大きな窪みが出来たとき(B)には音がしません。後続の小さな水滴が窪みをつくり(C)、それが気泡になった瞬間(D)から800Hz程度の強い音が聞こえます。その後、(E)と(F)を経て、その気泡がこけし状の水柱に抱え込まれるた後(G)も音は弱くなりますが聞こえます。(H)は水柱が落下して後に気泡が浮かんだときです。
 

音源の音の大きさと振動数は一連の水滴の大きさと水面までの落下距離によって変わります。水滴の成長する場所が水平でなかったり成長が速いと、一連の水滴が小さくて気泡も小さくなり、音が高く成り過ぎます。一方、水滴が切り離されてから水面までの落下距離は40cm程度が最適です。短い距離の10cmから40cmまでは、高い音(振動数1600Hz)から低い音(800Hz)に近づき、音の大きさも次第に大きくなります。それぞれの落下距離のときの音は高さも大きさも安定したものになります。次に、40cmを越えて80cmと長くなるほど、音の高さは40cmの時の音から一層高い範囲(800〜1500Hz)になり、それぞれの音の高さや大きさが変化し、不安定になります。従って、落下距離は40cm程度が音が低くて大きく、安定した音源となります。

●水琴窟の残響音

水滴は瓶の中央辺りの水面に落下するので、気泡の振動である音源もその位置になります。水滴の衝突で気泡が発生し、その後0.05〜0.08秒程度、音源は音を出し続けます。その音は瓶の中で水面から上の空間に向かって四方に広がり、水琴窟の側壁や天井で反射し、そこからまた四方へ広がり、それらがまた反射して、水琴窟の中の空間は音でいっぱいになります。

気泡の音源が音を出しはじめてから0.2秒程度は、音源の音とは違った複数の音が聞こえます。また、この間に、これら複数の音の多くは減衰して聞こえなくなります。しかし、その後0.8秒程度、この複数の音の内1〜2の音が残って長く聞こえます。この1〜2個の残響音がそれぞれの水琴窟を特徴づける音となっています(図
4)。

図4 「華水琴」の音色
このときの気泡の振動による音源の振動数は820〜900Hzと予想されます。音色を構成する残響音の主な振動数は1033、1302、1410、1765Hzです。1302Hzの音だけが長く1秒程度聞こえますが、残りの音は0.2秒程度で消えています。横軸が振動数、左の軸が時間、右の軸は音の強さ(パワースペクトル密度)を表しています。


音源の音から生じる複数の残響音の高さは、多くの場合音源の高さの1〜1.5倍になります。例外的に、低い残響音が発生することもあります。水滴の成長する面を水琴窟の上方に設け、水滴の落下距離を一定になるように瓶の中の水位を上げると、音源の音の高さは変化しません。このようにして、音源の音を変えないで、瓶の水位を上げると、残響音の多くは音が高くなります。しかし、残響音の内の長く聞こえる1〜2個の音は水位を変えても音の高さが変化しない場合があります。このことから、多くの残響音は瓶の中で上下方向に、長く聞こえる1〜2個の音は水平方向に音が伝搬して共鳴しているのでしょう。

音源の音が瓶の側壁や天井で反射して生じる複数の残響音として、瓶の振動によるものおよび水琴窟の空気の振動よるものが考えられます。そこで瓶を手で叩いて、瓶を振動させた音を調べると、そのほとんどが残響音と違った高さの音となります。このことから、残響音のほとんどは瓶の中の空気の振動によるものだと考えられます。しかし、瓶に粘土を張るなどして、瓶を固定すると残響音が変わることがあります。このことは瓶を固定すると水琴窟の側壁での反射の状態が変わり、残響音の高さや大きさが変化するのでしょう。


水琴窟の音色の音源は、水滴が水面に衝突して出来る気泡の振動ですが、水滴の大きさ、個数および落下距離によって支配されています。また、この音源によって生じる残響音は、水琴窟の形や大きさ、および水琴窟の側壁の厚さや堅さに支配されています。また、その水琴窟の外壁を砂やコンクリートで固定しないように設置する必要があるのかも知れません。観測口の位置によって音がずいぶん異なるようです。このようにして、創られた水琴窟は、数種類の残響音を出し、それらの内で速く消えるものと長く尾を引くものとの組み合わせによって、涼しげで素敵な音を奏でているのでしょう。

●水滴研究
  
 
渡部由雄(工学博士・東海大学工学部応用化学科教授/本会会員)

▼水の滴▼
 
水の性質

 1個の水分子(H2O)は2個の水素原子と1個の酸素原子で出来ていて、水素側は正の電気を持ち、酸素側は負の電気を持っています。したがって、水の中で近くの水分子が互いに引き合う力(分子間引力)の主なものは、この電気的な力です。この水の分子間引力は同程度の他の物質(H2S,CH4,CO,CO2等)のそれと比べてとても強いです。
 この強い分子間引力によって、水滴が簡単に生まれます。また、常温あたりで、気体になったり、液体になったり、固体になったりします。さらに、この水がその状態を変えるとき、膨大な熱量の出入りがあります。水のこの性質によって、地球の温度は、昼と夜、赤道と北極や南極であまり差がない状態に保たれています。その時、水が雲になったり、雨になったり、霧になったりして、これらの水滴が重要な働きをしています。もし、地球に水が無なければ、時間的に空間的に大きな温度差が生じ、生物は生存できないでしょう。
 また、1個の水分子が正と負の強い電気を持っている部分を備えているので、この対になった電気の力が物質を簡単に溶かし込みます。例えば、塩の結合は強力で、いくら熱を加えてもほとんど溶けません。しかし、これを水に入れると、簡単に溶けてしまいます。水ほど、多くの物質を容易に溶かし込むものは、身近で他にありません。
 循環し流れている水は、自然にきれいな澄んだ状態になっています。水は、熱エネルギーの移動を容易にします。水には、様々な物質が溶け込みます。水が有って、生物が生息しています。
1) 飛行機から見た雲
2)上高地の霧
水滴の形

 この水は、その強力な分子間引力で水滴になります。いま、ある大きさの水の塊を考えると、水面近くの水分子は分子間引力によって中の方へ引っ張られています。この力は、水の塊の表面積を縮めようとするので、表面張力と呼ばれます。水の塊が最少の表面積になるときの形は球形で、これが水滴です。そのとき、水滴の中の圧力が表面張力の作用で発生します。この表面張力と圧力の関係は、強い圧力で丸く膨らんだゴム風船に似ています。ゴム風船のゴムは延びて、その張力が風船を縮める方向に働き、中の圧力と釣り合っています。このような球形の水滴には、空中にある雲、雨、霧、雨垂れ、滝の飛沫などがあります。
 上に述べた水滴は空中にあって球形の場合ですが、ここでは平面上にある水滴を考えます。例えば、芋の葉の上の水滴は何故丸くないのでしょう。この水滴は小さいときれいな球形ですが、大きくなるにつれて、楕円のような形になっています。平面の上の水滴に作用する力としては、表面張力に加えて、水と平板の分子間引力が水同士のそれより大きいか小さいか、および、水滴自身の重さが重要になります。いま、平板の上に水滴があるとして、水と平板の分子間引力が水同士のそれより十分大きければ、水滴の水は平板に引き延ばされて膜状に広がり、もはや水滴の形ではなく成ります。たとえば、きれいに洗ったガラス面上に水を落とすと、水は膜になって水滴には成りません。そうだとすると、芋の葉の上の水滴は、水と芋の葉の分子間引力が極めて弱いから、球形になっているのでしょう。また、水滴が大きくなるほど扁平になるのは、水滴が自分自身の重さでつぶれているのでしょう。
 では、天井の水滴や水道のカランの水滴は、何故落ちてこないのでしょう。これらの水滴には重さがあるから落下するはずです。何が落ちないように引き上げているのでしょうか。これまで考えたことから、まず、水滴が天井に付着しているのですから、天井板と水の分子間引力が水同士のそれより大きいに違いない。しかし、この分子間引力の働く距離はたかだか分子1〜2個程度の距離です。残りの水滴の重さを支えている力は、水滴の表面の表面張力がゴム風船のゴムの働きをして、落ちてこないようにしているに違いない。
3) 時計皿から垂下する水滴

水滴の衝突


 雨や雨垂れの水滴が水面に衝突する姿は美しい。浅い水面に水滴が衝突するときの様子をよく見ると、衝突した水滴の跳ね上がりが王様の冠に似ています。最初にこの現象をミルクで見つけたのでしょう、ミルククラウンと呼ばれています。衝突した水滴が回りの水を押しのけていくが、押しのけられた水が次第に多くなり、押し返す水圧に耐えかねて、水が運動方向を上方に変え、その先端に小さな水滴を形成し、王冠状になるのでしょう。
 また、池に雨が降っているときなど、深い水面に水滴が衝突するときには、こけし状の小さな水柱が観測されます。これをビデオカメラなどでよく見ると、水滴が衝突して窪みをつくります。窪みの周辺は盛り上がって、王冠状になります。続いて、周囲の水がその窪みに流れ込み、勢い余ってこけし状の水柱をつくります。この水柱が落下して窪みや気泡をつくることがあります。次に、2個の水滴を続けて衝突させた場合、最初の水滴は窪みをつくりますが、次の水滴はその窪みの中に衝突して気泡をつくります。  水滴が衝突するとき、多くの場合音が聞こえます。雨音で雨の程度が分かるように、トタン屋根や池で、その雨音の大きさおよび高さを測定すると、雨粒の大きさおよび雨量が分かるでしょう。深い水面に水滴が衝突するときの主な音は、その時に出来る気泡の振動と深い関係があります。水滴の音を楽しむ装置として、水琴窟などが知られています。また、ショパンの曲「雨だれ」やボードレールの詩「霧と雨」など水滴にロマンを感じる人々がいるようです。
4)水滴の衝突による王冠
5)水滴の衝突によるこけし
 
  6)複数の水滴による水琴窟の音源
水滴と光

 雨上がりに見られる様々な水滴に日の光が反射している景色はとても美しい。また、水滴が集まった霧や雲の上に日の光が当たり、屈折と反射によって出来る、虹の橋も素晴らしい光景です。さらに、芋の葉や方眼紙の上に乗せた水滴がレンズになってみせる様子や軒先の水滴をのぞき込んで見える向こうの景色も面白いです。  水は極めて特異な物質です。その性質によって、我々は生を受けていることに、また、素晴らしい水滴の世界を享受することができることに感謝したいと思います。
7) 雨上がりの虹
8) 水滴の向こうの顔
9) 水滴のレンズ
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■文献

『庭園の水琴窟について』
 平山勝蔵:「造園雑誌」第22巻第3号、1959年1月

『庭の水琴窟について』
 平山勝蔵:「日本庭園」誌19号、1960年12月

『私と水琴窟の出会い』
 平山勝蔵、1980年7月

『造園技法 音を楽しむ水琴窟/私と水琴窟との出会い/庭園の水琴窟について』
 平山勝蔵:「庭」誌54号、1980年10月

『旧吉田記念館庭園内の水琴窟現況調査報告書』
 金井 格:1981年〔品川歴史館紀要第1号(1986)58-64、所収〕

『水琴窟−構造とその作り方−』
 中野之也:日本の音研究所、1986年

『水琴窟の話』
 龍居庭園研究所編、1990年

『幻の音風景 水琴窟』
 日本リゾートセンター出版事業部、1991年

『水琴窟の音響構造に関する実験的考察』
 岸塚正昭:造園雑誌第55巻第5号、1992年3月

『日本の音の原風景』
 中野之也(アンダーコンシャス・センセーション36-49所収)日本評論社、1997年

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